天然ダム形成時の緊急排水作業に使用する新技術「呼び水式・山辰サイフォン排水装置」の実証実験を見学しました。
(取材日:H24年11月1日)


中部地方整備局 越美山系砂防事務所管内の砂防堰堤にて、天然ダム※1形成時にその決壊を防ぐための電源不要の緊急用排水技術「呼び水式・山辰サイフォン排水装置」の実証実験が実施されており、当センター技術調査部にてその状況を見学させていただいた。
場所は、岐阜県揖斐川町坂内坂本にある山之谷砂防堰堤、技術開発者は平成24年1月から平成26年3月まで、越美山系砂防事務所よりこのフィールドでの実験許可を得ているそうである。

※1天然ダム:地震や集中豪雨、火山噴火などに伴う山腹の崩壊、地滑り流下等の自然現象により形成されるダム。河道閉塞とも呼ばれる。
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技術概要を説明する技術開発者、㈱山辰組の代表取締役 馬渕 和三氏。
この技術の大きな特徴は以下の2点である。
①サイフォンの原理※2による排水設備のため動力を必要としない。(水中ポンプ等の燃料補給が不要)
②全ての資機材が人力で運搬可能である。(道路が寸断された災害現場でも使用可能)

※2サイフォンの原理:ある液体を途中で高い地点を越えて目的地に運ぶ時、液体の初期の地点から目的地まで管を引き、何らかの作用によって一旦液体を管の中に満たせば、それ以上のエネルギーを与えることなく、液体は初期の地点から目的地まで移動し続ける。(灯油ポンプで灯油が流れ続けるのはサイフォンの原理による。)(ウィキペディアより抜粋)
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揖斐川では2007年5月、東横山地区にて河道を閉塞する大規模の地滑り災害が発生、その緊急復旧作業に、岐阜県大野町の建設業者である㈱山辰組が一員として参加しており、その時、このような技術の必要性を強く感じたとのことである。
天然ダムは一旦決壊すると激しい土石流により下流一帯に壊滅的な被害を与える可能性があるため、一刻も早く上流部に滞留する水を下流側に流す必要がある。しかし地滑り現場のため排水ポンプ車や機材を運搬するルート確保には時間がかかる。また山間部での発生が多いため、電源の確保も困難な場合が想定される。こういったケースにおいて非常に有用な技術である。
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実験設備図。図面の右側にある砂防堰堤上流側に溜まった水を、サイフォンの力で図面左側の吐出口より下流側へ流す実験である。今回は汎用的であり、かつ人力で運搬可能なΦ200mmのサクションホースにて実験を行った。
中央にある“組立て式「呼び水」貯水タンク”は、サイフォン原理を形成するための設備である。下流側のサクションホースの延長や、この貯水タンクの大きさは水頭差※3や上流部の水面から天然ダム天端高までの揚程高さ等により決定する。

※3水頭差:水の持つエネルギーを水柱の高さに置き換えたもの。この場合は上流側の水面の高さと、下流側地出口の高さの差となる。
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写真左側にあるのが“組立て式「呼び水」貯水タンク”である。災害現場でも人力で運搬・組立てが可能なようにメタルフォーム(高さ300mm×長さ1500mm×厚さ55mm)を採用した。
メタルフォームを組立てし、遮水性を確保するため内部にブルーシートを敷設している。
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上流の砂防堰堤の袖部から下流側の設備を望む。排水装置の流末(吐出口)は、奥に見える堰堤の下流側にある。
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排水装置の流末(吐出口)側から上流側を望む。
“組立て式「呼び水」貯水タンク”の設置盤の高さと、排水装置の流末(吐出口)の高さの差は約6.7mである。
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勢いよく流れる流末。実験により、このケースではサイフォン排水が可能であることを確認できた。
このサイフォン原理による排水は、管内空気の状態や現場の地形、使用する配管の状態等、条件が複雑に絡み合う。災害現場でこの技術を活用するには、まだまだ様々なケースの実験を繰返し、理論的に確立する必要があると、技術開発者は語る。

※サイフォン原理による排水を、動画でご覧いただけます。
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今回の実験では使用しなかった「サイフォン式マイクロ水力発電装置」。
「呼び水サイフォン排水装置」にこの「サイフォン式マイクロ水力発電装置」を取り付け、配管内の水の流れを用いて発電するものである。山辰組と、岐阜大学平松准教授、日鉄住金建材にて構成される「サイフォン式小規模再生可能エネルギー研究会」で開発を進めており、2012年11月9日に無事200Wの電灯を燈すことに成功した。
この技術は、災害復旧時の夜間照明や、天然ダムの監視用カメラの電源に使用することを想定している。
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このフィールドを提供した中部地方整備局 越美山系砂防事務所の所長 佐藤 保之氏。
あらためて所長に話しを伺うと、少しでも災害時の役に立ちたいという地元建設会社の“思い”と、この技術に秘めた“有用性”に着目し、フィールドを提供する決意をしたとのこと。
「砂防堰堤を活用した小水力発電は通常砂防堰堤に取水口を付ける必要があるが、サイフォンによる小水力発電は、その必要がないのも利点である。
また、砂防堰堤にこの装置を設置し、平常時は水力発電を行って、その電気を国交省や地域にて活用するとともに、天然ダム災害が発生した場合、装置を外して災害現場に送り込み、天然ダムの排水と天然ダム監視用の電源として活用するような使い方もできるのでは」と熱く語る。
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